2018.12.29 土井薫

 

「今度飲みいこ」

絵文字はもちろん、記号も何もない突然のメッセージ。1年半年ぶりに送ったにも関わらず彼女は

「いいよ、いつにする?」

と返してくれた。久しぶり、とか最近どう?とか、余計なものが一切ないこの連絡が今の私にはとても嬉しかった。

彼女とは高校の同級生。2年間同じクラスで最寄りの駅も同じ。

朝はほとんど一緒に行っていたし、学校帰りに遊ぶのはもちろん、当時好きだったバンドのライブも一緒に行ったし、高校時代の思い出には欠かせない人物。

無気力がすぎる私には明るすぎてうるさいなと思った時もあったけど、なんだかんだこの明るさに助けられてきたし、高校を卒業してからも何かとこの明るく笑う彼女の姿を思い出して元気づけられていた気もする。

待ち合わせは最寄りの駅。7年たって駅の姿は随分と変わってしまって、思い出の本屋も、ドーナツ一個で居座ったミスドも、たくさんのものがなくなってしまった。唯一残っていた百貨店も今度の5月に閉店が決まった。

楽しい思い出に浸りたいのに、突きつけられる現実に時代の移り変わりを仕方なく受け入れるのが大人になるってことなのかな。だとしたら大人になるっていうのはちょっと、いやずいぶんさみしい。

彼女に用意した和菓子は源吉兆庵の吉祥梅。お正月目前のお店には華やかな商品がたくさん並び、普段は閑散としているデパートもいささか賑やかになる。お正月みたいな日本文化を感じるタイミングこそ奥ゆかしく味わいたいと思う。

ビビットな和菓子はちょっと苦手な私は白い時雨の割れた表面から覗くピンクがかわいいこのお菓子を渡すことにしました。梅は私が好きな花の1つ。自分が好きなものを誰かに渡すとき心がポッと暖かくなる気がして。

「あ、これおいしいやつ…!ありがとう!」

パッケージを見てよろこぶ彼女の姿に今日の目的は達成したなとちょっとだけ誇らしかったな。

ビール、焼き鳥、ししゃも、手羽先。おしゃれじゃない店がいい、というリクエストに彼女が選んでくれたお店は驚くほどの低価格で楽しめるお店。

インタビューさせてね、とは伝えていたものの、結局はお互いの近況、同級生の話、映画の話、とまることのない話のネタにインタビューのことなんて忘れて賑やかな時間を過ごした。ただただ楽しいひととき。

「やりたいことがないんだよね。」そんなことを言いつつ、

「あ、そういえば来年は本出したいと思ってて…」なんて矛盾している私に彼女は

やりたいことあるじゃん。」と楽しそうに笑ってくれた。

「せせは将来どうしたいの?」と突然の彼女からの質問。

これからいろんな人にインタビューしようと思っていたこの質問に自分自身が答えられなくて、ちょっと困ってしまった。私は自分が思っている以上に今を生きるのに必死みたいだ。

「何も考えずに生きられたら楽なのにね。」

まわりの要領のいい女の子たちを羨みつつも不器用にしか生きられない。そういいながらも不器用な生き方を、無駄と言われるものにいかに価値をつけるかを楽しんでいる私がいる。

久しぶりにあった彼女は憧れの仕事に悩みながらもその夢を語るキラキラした目が忘れられなくて、あー、なんか夢を追うっていいなと、私が和菓子を語るとき、あんなにキラキラしているのかな。

和菓子を持って会いに行こう、一人目の彼女はめんどくさがりな私にこれからちゃんと頑張るんだよ、と優しくも強く、背中を押してくれた。今度あった時は「一人目があなただったから、私こんなにがんばれたよ」と笑って言えたらいいな。

彼女と別れて乗った帰りのタクシー。運転手のおじさんとたくさん話をしたんだけど、私と同じ24才の時はすでに子供がいたらしく、定年まで警備員として働き、その後タクシー運転手へ。転職してから15年になるそう。(これを聞いておじさんではなくおじいさんだってことに気づいたのだけど。)

出勤時間は夕方から朝方まで。昼夜逆転の生活。

「体が元気なうちは働かなきゃね。」

そう語る背中はとても誇らしげでかっこよくて。見えないところで頑張っている人たちがたくさんいる。

頑張っている姿を見られるのはなんだかこそばゆいから知らない誰かにパワーが届くように私は笑顔で和菓子を食べようと思っていたら、家について素敵な1日が終わった。

 

今日の和菓子

 

1946年創業の和菓子屋。岡山、東京銀座に本店を構える。

今回の吉祥梅は季節限定のお菓子で、酸味爽やかな梅あんを二層のしぐれで包み、紅梅と白梅をあらわされている。

梅の風味をしっかりと味わえる和菓子。

お菓子の色合いはもちろん梅の花が描かれたパッケージも新春にぴったりです。

源吉兆庵 「吉祥梅(きっしょううめ)」