こんなに素敵な和菓子の街があったなんて。

名古屋と言ってどんな和菓子を思い浮かべますか?ういろう?鬼まんじゅう?最近名古屋に行く機会が増え、街を歩くととても和菓子やさんが多いことに気づきます。

中でも多く取り扱われているのがお茶と一緒に楽しむ「上生菓子」。尾張徳川家の時代から続くこの和菓子文化を守ってきたお店の1つに両口屋是清があります。

伝統あるお菓子を守り続けていることはもちろん、時代の変化に柔軟に対応し次々に新しいものを生み出し続ける両口屋是清さんにお話を伺いました。

素敵な笑顔で迎えてくれたのは栄店店長の高橋さん。

夫婦で仲良く長く続くように

ー両口屋是清の歴史について教えてください

創業が1634年。大阪から出てきて、名古屋の本町通り(名古屋城から熱田神宮につながるメインの通り)に店を設けたのが1634年です。

戦争で書物が全部焼けちゃっておそらくなんですけど、いきなり菓子屋はできないので、大阪の方でもおそらく菓子屋はやってたんじゃないかなと思います。

江戸時代なので、お殿様の御用達としてお菓子を作ることがステータスだったんです。そこを目指して頑張るんですけど、なかなかなれず、2代目の時にようやく御用聞きになったんだそう。


葛焼き

そして、お殿様に「両口屋是清」という名前をいただいたのが1686年と言われています。「両口屋」には意味があって、夫婦で仲良く長く続くように意味が込められています。

是清の意味はしらべてもどうしても出てこなくって。よく人の名前ですか?って聞かれるんですけど、ちょっとわからなくて。いただいたお名前なんですってお答えしています。

江戸の頃から唯一残っているものが「通筥(かよいはこ)」。当時あのお重にお菓子を入れて献上してたお重です。戦争の時に名古屋が焼け野原になって、新しい蔵を作って大事な書物などを入れてたんですけど、そこが全部焼けてしまって…古い蔵に残っていた中に通筥だけが唯一残っているものですね。


当時のままの通筥

ー戦争中にお店を続けていくために大変だったんじゃないですか?

そうですね。戦争で職人が招集されて、岐阜に疎開したりとかで、一旦は商売から離れた時期もあったと思うんですけど、名古屋に戻ってからはものづくりをどうしてもやりたい、ということで、和菓子ではなく、喫茶を作ったり、学校給食のパンを作ったりしていました。その間に職人を呼び集めて、なんとか菓子屋を再開させたと聞いています。

栄店には喫茶も併設されています

愛知県民に親しまれる、馴染みのあるお菓子

ー両口屋是清さんの人気商品はなんですか?

焼菓子と千なりですね。

ー焼菓子について詳しく教えてください。
焼菓子は「よも山・旅まくら・志なの路」の三種類の詰め合わせです。

ーこの焼菓子はいつからあるお菓子なんでしょう?

旅まくらは昭和25年に天皇陛下が愛知国体にいらっしゃったときに喜んで食べてくださったという歴史があります。旅の疲れを癒すために作られたお菓子です。おそらくその他の二つはそれより前からあったようですね。


左からよも山・志なの路・旅まくら

この焼菓子の3種類は「親が買ってくれた」「自分へのご褒美に買った」「おばあちゃんの家に必ずあった」「家族みんなで一緒に食べた」など世代を超えて愛知県民の”懐かしいお菓子”として親しまれています。

ーなるほど。県民に親しまれる懐かしいお菓子、素敵ですね。千なりについても教えてください。

はい。千なり瓢箪(びょうたん)という焼印を使っていることに由来します。千なり瓢箪は豊臣秀吉が馬印の旗として使っていたと言われています。

最初は菊の御紋をつかっていたんですけど、菊の御紋と千なり瓢箪が似ていたこともあり今の焼印が使われるようになったんではないかと言われていて。

味は小豆粒あん、抹茶あん、紅粒あん、の三種類です。小豆粒あんと紅粒あんと白あんという時代もあったんですよ。紅粒あんと白あんは紅白でめでたかったんですけど、抹茶あんが欲しいというお客様の声が多かったので白あんをやめて抹茶あんになりました。一番人気は小豆粒あんですね。

実は別ブランドとして「ふわどらん」というどら焼き専門のブランドがあります。千なりの世界観がすでに確立しているので、得意とするどら焼きでもっとお客さんの要望に答えるにはブランドを変えてどら焼き専門店にしようよ!という想いのもと、2010年に始まったブランドです。

今日会って、今日渡す人には是非こちらもおすすめしていて、ふわっと軽い食感と小さめの可愛らしさが特徴です。

http://www.fuwadoran.com/

平成のお菓子、”ささらがた”

ー両口屋是清といえば私の中では”ささらがた”。季節によって変わるパッケージが印象的です!

ありがとうございます。お正月、お雛様、梅の時期、端午の節句、蛍、夏、月見、秋とパッケージが変わります。夏と秋は季節ならではの味も仲間入りします。

今は分けやすく、渡すお相手に若い方が多いということで、サラリーマンの方が買っていかれることが多いですね。

和菓子は抽象的な表現も多く、情景などを思い描きながら見た目や味を楽しんでもらう世界。なので、ささらがたのような直接表現したお菓子というのは現代のお菓子として、幅広いお客様から人気ですね。

今まで戦後にできた銘菓詰合と千なり等に長く支えられてきたので、なんとか平成のお菓子を作りたい!と2012年にできたお菓子です。和菓子は常に季節商品を作り続けているので、商品展開もめまぐるしい。その中で新商品を作り出すということは大変でした。

20年前は羊羹があって、羊羹が売れないから半分にして、さらに10年立つとその半分のサイズでさえ売れなくなって。お客様の声をとると食べきれない、包丁出したくないとか、お皿に出したくないとかいろんな悲しい意見が聞こえるようになりました。

それでもお客さんの声を大事に、手を汚さずに、そして食べきれるサイズで作ろう!ということになり、3年くらいかけて「ささらがた」が生まれました。翌年の2013年の年末にはパッケージを変更した「干支ささらがた」の販売がスタートし、さらに2014年夏には「夏のささらがた」として新たな味も生まれました。

あらゆるシーンで楽しんでいただける提案として、「ささらがた」完成時には新商品の発表会も開催しました。
・旅に行くスーツケースの中に入れるスタイル
・女子会などのパーティー
・ジョギングなどスポーツ
・働く女性のオフィスの引き出しの中に

夏限定のささらがた

手をよごさずに食べられるパッケージにも工夫を凝らしました。そして、パッケージも開けた時も可愛い、両口屋是清らしさを伝えたかった。私たち社員の熱もこもった商品になっています。

時代時代に合わせて支持される

ー両口屋是清の特徴は何ですか?

歴史が長いので店舗数、お菓子の種類が多いのが特徴ですね。それだけ選べる汎用性がある、用途に合わせて選べるのは強みだなと感じています。店に来てもらってこういうお菓子が欲しいって言っていただければ、それに近づけるお菓子を作って行くことが可能なのかなと思っています。


お客さんの声で生まれた千なりの抹茶あん

ー両口屋是清以外の中でたくさんのブランドが展開されるのも選択肢が増える、ということでしょうか?

そうですね。両口屋是清で表現できる世界観と新しくブランドを作った時に表現できることが増える。ブランドごとにコンセプトを持ち、立ち上げた店舗があります。例えば、新宿にある「結」。

新宿を往来する年齢層は両口屋是清が得意とする層と少し違いがあります。結は年齢層が若いですし、どう見せるかを考えた時に人と人を結びたい、海外と日本を結びたい。そういうところを大事にコンセプトを持ってブランドをやっています。

両口屋是清と結は相対するところにいるのかなと思っていて。両口屋是清の生菓子では淡い色が良しとされているけど、結では淡い色だけではなく時には色の変化が必要なこともあります。

同じ職人が名古屋で作っているので、感覚が偏りすぎてないようにしています。両口屋是清であれば、和菓子自体に素材の味をつけることは少ないのですが、結はトマト味やトウモロコシ味のお菓子なんかもあって。その振り幅に悩みながら職人が作っています。

100年前のお菓子を食べたらきっと味は違うんですよ。だけどそれをわからないように変えて行くのが和菓子屋だと思っています。日々千なりは売れてて、改良はいつも行っていて、ちょっとずつわからないように変わってる。その時代時代に合わせて支持されるんじゃないかなと思います。

ここ10年は両口屋是清にとって目まぐるしくて。新しくブランドができたり、お食事所を始めてみたり。守るところは守り、攻めるところは攻める。新しいブランドや商品を作ることで変えていけたらいいなと思います。

和菓子は特別じゃない

ー若い人の和菓子離れを感じることはありますか?

若い人にあまり知られてない、お店に入りづらいというのは良く聞きますね…。気軽に入って来て、お菓子を見てもらいたいなと思ってもらえるお店にできたらいいなと思います。

和菓子の固定概念みたいなのは取っ払いたいし、ただ一方で伝統は残していかないといけなくて。それをブランド別に分けてできるのは強みだなと思いますね。

お茶の文化が発達してるっていうのは尾張徳川家の文化があって、私たちの中で大きいお茶会「徳川茶会」というのは外せないんですよね。若い人たちから見たら、硬い、重い世界。ただ、それは生菓子の職人たちが和歌を詠んだりして世界観を鍛えて作っているのできちんと伝えていきたい和菓子の歴史。

入り口はどこでもいいと思うんです。ただ、「和菓子は特別じゃない」って言いたくて。“晴れの日”だけ和菓子を食べるんじゃなくて、日常の中にお菓子があることが理想だなと思っています。

お抹茶じゃないと食べれないという和菓子の固定概念を取っ払っていきたいですね。若い世代にも、自分のおこずかいで買える値段なのでぜひ遊びに来て欲しいなと思っています。

ーこれからの両口屋是清も楽しみですね!

「もっともっと、止まることを許されない」というのが両口屋是清の社風なんです。「こんなお菓子があったらいいね」は常に考えています。うちは製菓学校を出てる人は基本的に取らないんです。

和菓子が大好きな人が集まる会社。だから、みんなの意識化にあるのは子供の頃の味。あの懐かしくて思い出の味を残していけたらいいなとみんなで考えながら楽しく和菓子を伝えていけたらいいなと思っています。

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「伝統を守りながら新しいものを。」

伝統は守らなくてはいけないけれど、でも時代に合うものを作っていかなければならない。和菓子界におけるとても難しいところ。これまでたくさんの和菓子屋さんが葛藤している姿を見ました。わかっていても実現するのはなかなか難しい。

しかしこの難問をブランドを分け、一つのお菓子屋さんとして実現している。お店の規模が大きいからできることというのはありますが、それ以上に柔軟性や、お菓子を愛する思いに圧倒され、とても嬉しく、ワクワクした取材でした。

ぜひこれからも和菓子を愛するそのパワーで和菓子の良き伝統と、これからの時代を作る和菓子を作り続けていただきたいなと思います。

お話を伺った高橋さんはじめ、広報の近藤さん、浅井さん、みなさんが楽しそうで笑顔で楽しそうにお菓子について語る姿が印象的でした。楽しい時間をありがとうございました!

店舗情報

店舗名 両口屋是清 栄店
住所 名古屋市中区栄4丁目14-2 久屋パークビル1F
電話 052-249-5666
営業時間 9:00~19:00 (喫茶・ギャラリー 10:00~18:00)
定休日 元日
最寄駅 地下鉄栄駅
HP http://www.ryoguchiya-korekiyo.co.jp/