優しい味わいで毎日に幸せを運ぶ、京都 中村軒の和菓子<前編>
京都に行ったらぜひ食べていただきたいお菓子、それは中村軒のお菓子です。
なかでも特におすすめなのが看板商品の「麦代餅」。
もっちもちの生地、絶妙な甘さでトロッとしたあんこ。風味豊かなきな粉。
あまりにもおいしくて、もう死んでもいい~!!と思ったほど。本当においしかったんです。
これほどまでに魅了される中村軒の魅力を、専務の中村さんにお話を伺いました。
たっぷりお話を伺ったので今回は前編と後編に分けてお届けします。
創業当時から変わらない趣のある建物
ーまず中村軒の歴史について教えてください。
中村:明治16年に初代が中村由松がこの場所で創業しました。お店はずっと変わらずにこの場所。百貨店に商品はおろしていますが、店舗もここだけになります。
ー趣のある建物ですね。
中村:ありがとうございます。建物は明治の末に2代目の時に丹波山のヒノキを買って作りました。その当時は宮大工に、ゆっくり丁寧に作ってもらったため、古いわりにはしっかり作ってもらっています。
ー一日どのくらいお客さんがいらっしゃるんですか?
中村:時期によってバラバラなんですけど、イートインは一番多い時が夏のかき氷の時期。多い時は、700人くらいですね。かき氷以外にも、くずを分厚く切ってもちっとした弾力を楽しんでもらう かつら女(かつらめ) も人気。秋になると栗ぜんざいや、冬は白味噌の雑煮など季節ごとのお菓子を楽しめます。
お菓子としては5月の節句、ちまきを皆さん買われますね。あとは6月30日の水無月の日、それから年末のお雑煮のお餅を買いに来られます。どの季節でも麦代餅が一番人気。生菓子屋なので季節によってお菓子の種類がガラッと変わるのでどの季節に来ていただいても楽しんでいただけると思います。
「もう一個食べたいな」と思えるお饅頭
ー中村軒で一番歴史の長いお菓子はなんですか?
中村:かつら饅頭と麦代餅です。
かつら饅頭は初代のお姉さんが発案したお菓子なんです。当時は砂糖が贅沢品だったので、お菓子等と「しっかり甘い」というのがおいしいお菓子とされてたんですけど、しっかり甘いというのは一個で満足してしまう。
だから、砂糖を控えて、もう一個食べたいなと思えるような配合にしてみたらというようなことをおっしゃられてできたお菓子です。だから、当時の贅沢なお菓子に比べたら甘さは控えめにできています。サイズは今も変わりません。
もう一つがうちの看板商品でもある麦代餅(むぎてもち)です。麦代餅は今より1.2倍くらい大きかったんです。
農作業の合間に食べるお菓子だったので腹持ちが良くないといけないというのと、食べやすさが重要視されていて。この辺りは昔田んぼだらけで、ほとんどが農家の方でした。
田んぼに麦代餅を配達に行き、田植えの忙しい時期がひと段落した半夏生の頃にお餅の代金として麦をいただいていた。このように麦と交換していたため麦代餅という名前になりました。
一番マイナスの状態で一番最高の味
ー中村さんが一番好きなお菓子はなんですか?
中村:自分が開発したお菓子というのは思い入れはあります。ただ、どの代のものも作業性、素材を活かすという意味を込めて、「やっぱり麦代餅を超えるものはできない」と言っていますね。
麦代餅は形も昔から変わりません。完全に包んでしまうと時間もかかるし、折り畳んで、きな粉をふって、という形ですね。
シンプルで、でもあれ以上の味ができないというのが、麦代餅の特徴でもあり強み。だから看板商品なんだなと感じています。
ー超えられないポイントというのは具体的にはどんなところでしょう?
中村:細工すると今の味を保てないというか、足して足して作るより、一番マイナスの状態で一番最高の味を作れるというのが超えられないポイントなんだろうなとおもっています。
どうしても今あるものに足して足してしてしまうので…削ぎ取って削ぎ取って新しい味というのは、本当は一番難しいけど、一番尊い商品なんだなと思いますね。
つぶあんは4時間半、こしあんは6時間。”おくどさん”で炊くあんこの秘密
ー和菓子の命はやっぱりあんこ。中村軒のあんこの秘密を教えてください
中村:昔はみんなそうだったと思うんですけど、火を起こして、薪を焚いて。それはただ単にガスや電気がまだ普及していない時代。
2代目の時にはもうガスであんこをたく店が増えてたらしんですけど、2代目が亡くなる間際に3代目(私の祖父)に「ガスが普及してきているけどあんたきだけは薪で炊くのをやめたらダメだ!」と教えてからなくなったらしくって。
時代が良くなってきてからは、ものがたくさん売れて、デパートからも発注が来るようになりました。
おくどさん(京都ではかまどのことを「おくどさん」と呼ぶ)一機ではとても追いつかなくなってきたそうで。
その頃からコンピュータがついた、火力を調節できる竈(かまど)も普及してきてたので、コンピュータにガス竈の火の燃え方をインプットさせる機械を導入したんです。
それを使うことで量も炊けるスピードも違ったので、百貨店の分も作れて、それでも余るくらい作れました。それぐらい仕事は効率化しましたね。
10~15年くらいその竈を使ってたんですけど、どこか味が違うんじゃないか?という常連さんの声や、炊いてる職人(父や昔からの職人)、父も変えたものの、「どこかなぁ…」と思いながらやっていたそう。
疑問はどんどん多くなり、炊ける範囲で、規模を縮小してやってみようかと話して、機械の竈からおくどさんに戻しました。
バシッと決まる瞬間があるんですよね、機械とは明らかに違う。
心から美味しいと思えましたね。今となってはおくどさんに戻してよかったなと思ってます。
うちの祖父が言ってたんですけど、
「あんこにしても何にしても、出来上がって加工しない状態が一番美味しい。あんこをあげて容器に入れる。そのあとに色をつけたり、柔らかくするためにまた熱を入れたり。その加工は美味しくなる確率よりも味が落ちていく加工。炊きあがって2,3日経ったものをヘラですくって食べるのが一番美味しい。」と教えられました。
生菓子に関してはやっぱりシンプルなものが一番美味しいということなんだと思いますね。
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一番マイナスの状態で一番最高の味。
その言葉に、日本の引き算の文化の美しさを感じました。
大好きな麦手餅は想像の何倍も奥深く、丁寧に丁寧に作られているからこそあの美味しさが出るんだなぁとますます大好きになってしまいました。
後編では京都から発信する和菓子の魅力について伺います。次回もお楽しみに!
今回出てきた中村軒のお菓子はこちら↓