お参りの時にありがとうと一緒に添えられる和菓子。そこにはお菓子の数だけ素敵なストーリーがありました。

普段はなかなか見られないお坊さんの毎日を少しだけのぞいてみましょう。

最近、退院されて自宅に戻ってこられたおじいさん。今日は熊本の『誉の陣太鼓』を出していただいた。このお菓子、食べるときには付属のナイフでパッケージごと一刀両断するという潔さがおもしろい。

いつものようにお茶をいただきながら話していると突如、電子音が響き渡った。

何ごとかと、音のした方を見てみると、お掃除ロボットの「ルンバ」だ。緑の光を光らせ、けっこうな吸引の音を上げながら、あちこち動き回っている。お茶をいただきながらお話しをするが、ルンバの音が気になって話がまったく入ってこない。

たぶん、設定で人がいない時間に掃除させるようにできるんだろうけど、おじいさんは機械には不慣れな感じで、そのままにしているのだろう。

「機械は文句いわんけ。」

というおじいさん。しかし、文句も言わない代わりに言うことも聞かないようで、ぼくたちが座っているソファの方へゴミを吸い込みながら、どんどん近づいてくるルンバ。

ついに、おじいさんの足元へ。足に当たったら痛いのかなと思っていると、慣れたように両足をひょいと腰の位置まであげるおじいさん。その形、まるで体操の脚前挙支持のよう。そこを通過する、ルンバ。先日まで入院していたとは思えないくらいの軽やかさ。しかし、壁にガシガシ当たりながら再び執拗(しつよう)に攻めるルンバ。おじいさんも、ひょいひょいと、何度も足を上げる。これは、下手なリハビリよりよさそうだぞ、と思うぼく。

今度はぼくの足元へルンバがやってきた。あえて、足をどけないで当ててみる。
けっこうな力だ。ブラシ的なものがバシバシとつま先に当たる感覚がする。たまらず、ぼくもひょいと足を持ち上げ、おじいさんのマネをする。

ルンバさんのお通りに人間は逆らえない。文句も言わずにお掃除していただいているのだから。なんだか、AI時代の人間と機械の関係が少し見えたような気がした。

2018.4.6

 


大江英崇さん

福岡県豊前市賢明寺僧侶&ローカルWebメディア「ぶぜんらいふ。」編集長。