韓国で目にする機会が多い和菓子「カステラ」。韓国語でカステラの表記は「카스텔라」で、読み方はそのまま「カステラ」。多くのパン屋さん、コンビニ、スーパー、カフェ。そしてなんとスターバックスでも販売されている。

スターバックスの焼印が押してあるカステラ 900ウォン

さらに、表面にカステラを粉状にしたものをお団子にまぶして食べる、キョンダン(경단)という韓国のお団子もある。なぜ韓国にはカステラ文化が根付いているのか、そしてこのカステラ文化は日本のカステラ文化と関係があるのか。今回は日本と韓国のカステラ文化について探っていこうと思う。

カステラについて

そもそもカステラとは、日本で誕生したお菓子である。カステラの原型といわれるポルトガルの焼菓子「パン・デ・ロー」(pão de ló)が日本に伝わったのは16世紀のことで安土桃山時代の頃である(スペインの焼き菓子「ビスコチョ」(Bizcocho)という説もある。)。

ポルトガルの”パン・デ・ロー”に似ている然花抄院 の紙焼きカステラ

カステラを初めて作ったのは長崎の福砂屋と言われており、1689年の「合類日用料理抄」、1718年のお菓子の最古の製法書「古今名物御前菓子秘伝抄」にレシピが掲載され、江戸時代には全国に広まっていったとされる。しかし、当時のカステラは現在のものより膨らみが少なく、パサパサした食感だったと考えられている。

明治時代以降、水飴やザラメが使われるようになり、材料、混ぜ方、焼き方など研究され続けたカステラはしっとりとしたきめ細やかな食感が特徴の日本のお菓子として確立した。

ちなみによく「カステラは和菓子なのか?」という質問があるが、”和菓子”とは明治時代以降開国に伴い海外からのお菓子が入ってきた際、それまでに作られていたお菓子と区別するために生まれた言葉である。よってカステラは立派な”和菓子”である。

最近ではチョコレートや抹茶など様々なフレーバーに加え、卵黄と砂糖を増やし卵白を減らして作る「五三焼き」も定着

韓国のカステラ

続いて、韓国のカステラについて見ていこう。韓国において、カステラを見る機会が圧倒的に多いのがパン屋さんである。韓国のwikipedia的なサイトによると、パン屋さんの定番と書いてあるので、間違いないようだ。

自宅用には透明のフィルム、どちらのお店も”BEST”や”人気商品”というPOPがしてあるのだ印象的だった。さらにギフト用のカステラも販売されている。

そして、コンビニにもおいてある。これは韓国のkakaofriendsのキャラクターのカステラ。

サイズは日本より長さが短く食べやすい。生地の表面には気泡も多く、日本ではカステラの製法の途中の過程で行われる「泡切り」はしてなさそうだ。価格帯はサイズにもよるが5000~7000Wと、日本よりも手軽なおやつという感覚。一般的な材料としては、卵、小麦粉、砂糖、蜂蜜とのこと。水飴は使われていないようだ。

“日本のカステラは1本2000円程度ととても高い”と書かれてあった。確かに、ギフトとしてはいいが、もう少しおやつ感覚で食べられる手軽なものを日本でも売ってほしい。そして、釜山のパン屋さんで購入したカステラがこれだ。

日本のものに比べるとしっとり感は少なく、パンっぽい水分量が少なめの生地。黄色の生地は色が薄めである。

日本に来た韓国人の友人がカステラを買って帰っていたので「韓国にも売ってるのになんで?」と聞くと、底のざらめが好きなんだとか。さらに、日本のカステラはしっとりしていておいしいとのこと。しかし、いつもお土産に買って帰るが、1本は多い、と悩んでいたので、切って冷凍するといいよ、と教えてあげた。

韓国のパンの始まりは「カステラ」!?

なぜこれほどまでに韓国ではカステラが売られているのだろうか。すると、一つの記事を見つけた。

韓国でパンがいつ頃から食べられているのか、という記事である。
https://mnews.imaeil.com/page/view/2014022207590094244

この記事によると、パンが韓国に伝わったのは1890年代、宣教師によって伝えられたそうだ。日本と文化の流入経路が似ていておもしろい。そこで「麺(面)包(ミョンポ)」というパンと「ソルゴ」というカステラが伝わったと記載がある。韓国のパンの始まりは日本のカステラだったのである。

「面包」は中国語でパンのこと、そして、この「ソルゴ」というものについて調べてみると、どうやら韓国の伝統菓子「ソルギ」のことらしい。ソルギとは米粉を蒸して作る餅菓子で、韓国では生誕から100日後や初めての誕生日の際に用いられる。日本における「かるかん」に似た蒸し菓子だ。

ペクソルギに似ている鹿児島のかるかん

カステラが韓国に伝わったのは、朝鮮通信使が日本で振る舞われたカステラがきっかけである。朝鮮通信使とは室町時代から江戸時代に派遣された外交使節団のこと。約200年の間に12回派遣されているが、来日した際、国を挙げての接待が行われ、その中にお菓子も必ず含まれていた。

日本にカステラが伝わったのは16世紀であるが、朝鮮通信使のもてなしに南蛮菓子やカステラが登場するのは17世紀以降になってからである。例えば広島県の福山城で行われた接待の様子の絵にはカステラや羊羹のお菓子が描かれ、福岡県の小倉城で通信使を迎える予行演習の際の材料にもカステラが登場している。

その際、振る舞われたカステラを韓国の伝統菓子「ソルギ」と間違えて記録に残したため、「ソルゴ」として伝わったんだそうだ。ソルギは米粉を使うため、時間が経つとすぐに硬くなってしまう。おそらく当時のカステラは現在のようなしっとり感はなくしっかりと膨れていたかどうかも定かではない。色こそ違うものの、食感や形はソルギとよく似ていたのではないだろうか。

釜山駅で売られていたソルギ。一番左が古くから伝わるシンプルな「백설기(ペクソルギ・白いソルギの意味)」

江戸時代のカステラが韓国で食べられる!?

もともと韓国では小麦の栽培量が少なく、作られていたもののこれらは餃子や麺など、中国から伝わった料理を作るために使われ、王室や富裕層のための食材だった。一般的にに小麦粉が使われ始めたのは朝鮮戦争後、アメリカからの小麦の輸入が増加してからである。一例としてパン、カルグクス(韓国風うどん)はよく出てくるが、カステラも同様であろう。

長崎カステラの特徴である水飴は、明治時代以降に使われるようになり、水飴により現在のようなしっとりとした食感を味わえるようになった。さらに、長崎カステラの特徴でもある底のザラメも明治時代以降に使われるようになった。つまり、韓国のカステラはしっとり感がないのではなく、江戸時代に日本から伝わったカステラの原型に近いのではないだろうか?

1軒のベーカリーカフェのカステラ(ギフトボックスに入ったカステラの写真のお店)はプレーンの他に抹茶があったが、基本的にはプレーン1種類で、日本のように抹茶、チョコ、イチゴなどのフレーバーは一般的ではないようである。水飴やザラメ然り、フレーバー然り、韓国のカステラはここから発展していくのではないだろうか。今後の韓国のカステラに期待したい。

参考文献

빵, 언제부터 먹었나? 우리나라에선?
https://mnews.imaeil.com/page/view/2014022207590094244

가수저라(加須底羅)-카스텔라(Castella)-백설고(白雪糕)
https://m.blog.naver.com/PostView.naver?isHttpsRedirect=true&blogId=blisskim47&logNo=220698771958

카스텔라
https://namu.wiki/w/%EC%B9%B4%EC%8A%A4%ED%85%94%EB%9D%BC#fn-1

韓国のパン市場において①
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.panpedia.jp/lesson/pdf/67-3.pdf

16世紀から17世紀における菓子について/江後迪子、山下光雄
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/30/2/30_106/_article/-char/ja/

古今名物御前菓子秘伝抄

和菓子8号「朝鮮半島の菓子、その特徴」「飛ぶカステラ鍋」/虎屋文庫

西日本文化486「朝鮮通信使をもてなした菓子」