お参りの時にありがとうと一緒に添えられる和菓子。そこにはお菓子の数だけ素敵なストーリーがありました。普段はなかなか見られないお坊さんの毎日を少しだけのぞいてみましょう。
お参りがずれ込んで、いつもの時間より少し遅くなってしまったあるお宅。仏間にあがると、「いつもより遅いし、なんかあったんやろかと。ここは車通り多いし…」と、少しパーマのかかった腰の曲がったおばあちゃんを心配させてしまった。申し訳ないけれど、子どものように心配されるのが少し嬉しい。
お参りを一緒に終えた後、出していただいたお菓子は『ひよ子』シリーズ。ひよ子の形が可愛らしい『名菓ひよ子』を出しているメーカーのお菓子だ。お茶をいただきながら、最近暖かくなってきたので、「どこかお出かけされますか?」と尋ねてみる。
「散歩や畑仕事はするけれど、自分はあんまり出たことないです。買い物もスーパーの中を回るのはおっくうなので、息子に頼んで買ってきてもらいます。」と、おばあちゃん。今日のお菓子も買ってきてくれたものなのだそうだ。
そんな息子さん家族は隣に住んでいて「窓開けて呼んだら、聞こえる距離にいます。」とのこと。家の中のことは少しずつするのがやっと、とおっしゃるおばあちゃんだから、一緒に住んだらいいのではと思うのだけど、それは余計なお世話。おばあちゃん自身、近すぎず遠すぎずという、子どもさんたちとの距離感が気に入っているようで、「思うようにいかんけど、自由にすることができるけ。」とおっしゃっていた。
「一人ですから、自分の夜のご飯が余って、次の朝、ご飯を炊かない時には、隣に行ってお仏飯(おぶっぱん:仏さまに供える白米)をもらってくるんです。」と、おばあちゃん。今日、お仏壇にお供えされているお仏飯も子どもさんたちの炊飯器で炊かれたものなのかもしれないなと考えながら、ふと思った。そうか、窓を開けて声が聞こえる距離は、お仏飯が冷めない距離でもあるんだな。
それはおばあちゃんにとって、息子さんに頼ることができる距離で、反対に息子さんはお母さんの様子を知ることができる距離。お互いに安心できる、ちょうどいい距離なのだと思った。
2018.4.26
大江英崇さん
福岡県豊前市賢明寺僧侶&ローカルWebメディア「ぶぜんらいふ。」編集長。