私がお菓子を食べる時、気にしていることがあります。それはおかし一つ一つの表情を見ること。この子は元気そうだな、この子は何か言いたげだな…?そんなことを考えながら和菓子を見るのがとても好きです。

最近食べたお菓子の中で人見知り、だけどとっても魅力的なお饅頭があります。福岡県春日市にある富貴の「お茶々万十」です。

包みを開けて開いたときはとても素朴なお饅頭。しかし、お饅頭を割った時の表情がなんとも魅力的。麗しい半透明のあんこがたっぷりと詰まっているんです。お茶々まんじゅうを始め富貴のお菓子はどれも優しそう。中身を割るとこれまた表情が変わる素敵なお菓子たちばかり。お菓子に込められた思いを富貴代表松本さんに伺いました。

お菓子は地域文化の伝承者

 

ーお菓子の表情が繊細で柔らかく、割った時の表情がとても素敵です。

松本:そうですか…ありがとうございます(笑)なんかそういう切り口ってわかりやすい感じがしますよね。ツンとした表情や、人懐っこそうなお菓子。私たちの中でもちょっと人に持っていくいくっていうようなお菓子と「えぇ!」って笑うようなお菓子っていうのもあっていいのかなと思っていて。「しりたたき」なんかはいい例ですよね。

ー名前を聞いたときはびっくりしました!「しりたたき」もとても繊細な表情をしていて、名前とは真逆の優しい味です。

松本:「しりたたき」っていうお菓子はこの地区だけのお祭りで「嫁ごの尻たたき」っていうお祭りから来ているんです。春日市には昔から伝統的にあるお祭りが2つあります。一つがお婿さんのお祭り。

もう一つがお嫁さんのお祭りです。子供達がわらの棒を作ってお嫁さんのお尻を叩いて、子宝に恵まれますように、長くここにいついてくれっていう願いをこめてってやるんですけど、お嫁さんはお尻叩かれると痛いから逃げ回るっていうちょっと滑稽なお祭り。

だから、尻たたきっていうのはお嫁さんが来ない限りいつやるか分からない、へたすると何十年もやらない可能性があるんです。このままだったら絶えてしまう可能性もあって。

だったら忘れられないように、このまちに「尻たたきというお祭りがあります」ということを知らせる役目を私たちがしましょうということで通常商品のお菓子として考案したのが始まりです。平成になったばかりの時にできたのでかれこれもう30年くらいあるお饅頭です。

お菓子は物販用のもののように見えるんですけど、文化の伝承者でもある。地域文化の伝承者でもあるから、言葉を商品のイメージにのせて出すということなんですよね。この頃は、「博多」をつけた名前の商品や、私が山笠に出ていることもあり、山笠のお菓子を作ったりもしてますね。

ーお菓子を食べながら知らない文化を学べるというのは次の世代に文化をつないでいけるきっかけになるのかなと思ったりします。

松本:そうですよね。きっと、そういう切り口の方が、お客さんにアピールする力があるんだと思っています。今は全国にコンビニがあって、自分の町のお菓子屋の”ここしかない”ってそういうものが大切なような気がしています。

 

もっちりとした新食感カステラは新しい博多土産

 

ー博多カステラはもっちりとした今までに食べたことのない食感のカステラでした。

松本:博多カステラは2011年の3月に博多阪急のOPENに合わせてできた商品です。同業者の人たちも作れるように和菓子組合のブランドという形で出したんですよ。今は代表銘菓のお茶々饅頭とほぼ同じくらいの売れています。

あんこが苦手な方や、日持ちがするお菓子を求める方に買っていただいてます。福岡・博多はまんじゅう発祥の地として、昔から多くのおまんじゅうを排出してきました。そのため富貴の博多カステラは、伝統的なカステラをおまんじゅうのように丸い形をしています。

春日市って自衛隊関係者が人口の2割いるんです。陸上自衛隊と航空自衛隊があって。出入りが激しいんですよ。小学校に入学して、小学校6年生になるまでに6年間続けて残る子っていうのが2割ぐらいしかいない。

ーびっくりですね…!

松本:びっくりでしょ。それぐらいの出入りがある街で。どちらかと言うと地元の人は高齢化していくんですけど、自衛隊の人たちは若いから、必ず若い人が入ってくるんですよ。平均年齢でいうと春日市は若いんですよ。

そういう人たちが博多カステラをお土産として使ってくれていて、おいしかったって、全国から連絡があったり、ネットで購入される方も多いですね。こっちがコマーシャルしなくてもそういう方が全国に行かれるのでありがたいです。

 

「また食べたい」と思った時にを「また食べれる」ものを

 

ー同世代の子たちに食べて欲しいと言うのがあって。みんなきらいなわけではないんだけど、なかなか食べる機会が少ない。和菓子の敷居を良い意味で下げて気軽に食べれるようにしていけたら良いなと思ってるんですが…。

松本:地域によっては全然食べないお菓子もあるし、それぐらい個性があります。福岡は安いお菓子文化なんですよね。3年前から「栗きんとん」を作り始めたんですが、作る前に色々調べて見ると、福岡に栗きんとん食べる文化がないんですよ。そうなると、供給がないんじゃなくて需要が小さいから供給も小さくなって、小さいものっていうのは高くなる。

だから産地である岐阜とか行くとかにとやっぱり栗きんとんがやっぱり安いんですよ。「また食べたい時にまた食べれる」につながる。(福岡で買うと,250円から350円くらいが一つの基準。岐阜の方に行くとだいたい200円から250円。)

そこで、うちで栗きんとん作るにあたって、自分の為の一個を買うというよりも、配りたいなって思うものを10個買ってもらえるような金額設定にしようって。あのお菓子をもう一回食べたい、と思える土壌を作らなきゃいけないなと思っています。

結局一個の値段を低めに設定することで、売れる人気商品になりました。栗きんとんだけでいうと個数でいけば福岡で一番じゃないかな。栗きんとんが食べたいからうちに来る、せっかく買うんだったらたくさん買いたい、そして周りにも配りたい。そういう文化ができるといいなと思います。

 

お菓子にはまだまだ希望がある

 

ーこれからの和菓子についてどんな思いをお持ちですか?

松本:もっと美味しいものを届けたいですね。うーん、もっとおいしい物って言うかね。味はもちろんなんだけど、お客さんがお菓子を選ぶ時に「ふふっ!」って笑ったりとか思わず笑顔になるそういうところはお菓子のっけたいなと思ってる。人の最終的目標っていうのがありますよね。「幸せ」っていう。お菓子に幸せっていうものを持たせられたらいいなと思っていて。

お自分が作りたいものを作るだけだとエゴになるので。働く人たちも幸せにならなきゃいけないし、幸せはお金もらったから給料もらったから幸せになるんじゃなくて、自分のやってる仕事の意義をちゃんと見つけていかないとそれがないとやっぱり衰退する。そういうところかな。

あとは富貴だけではなく、いろんなお菓子やさんと相互間の中で、お菓子っていうのを盛り上げたいですね。コンビニで売られてないんだったら和菓子の行く末も危ないと思うんですけど、どのコンビニでも必ず和菓子がある。売れるアイテムだから置く。だから、そこにはまだまだ希望があると思っています。

うちの紙袋にね、「japan DNA」って入ってるんです。日本人のDNAがしっかり組み込まれてるのが和菓子だと思っていて。じゃあ古いものだけが和菓子かっていうと、そうではなくて。

日本自体が本来よそから来たものをうまく受け入れて、咀嚼するという文化があると思うんです。これがJAPAN DNAだ!って。だからそれをこっそり紙袋に入れて、そうゆうのを大事にしていきたいですよね。


 

いろんなお話を伺って取材当日は約2時間もお話ししてしまいました。全ては紹介できませんでしたが、松本さんの言葉一つ一つに和菓子への愛、こだわり、強さを感じました。やさしい表情、割った時のに初めて出てくる力強い表情。富貴の和菓子たちはまるで松本さんそのもの。これからも優しく、そして力強い和菓子を作ってください。松本さん、どうもありがとうございました。

 

店舗情報

店名  富貴 本店
住所 福岡県春日市伯玄町2-55-3
電話 092-581-9095
営業時間 [月~土] 8:30 ~ 19:00
[日] 9:00 ~ 18:00
定休日 元旦のみ
最寄駅 春日駅
HP http://www.e-wagashi.jp/